整数計画問題に対する前処理手法とメタヒューリスティクス
本記事は 数理最適化 Advent Calender2022 の25日目(最終日)の記事です.24日目の記事は mirucacule さんによる 最適輸送距離に基づく分布的ロバスト最適化とその周辺 でした。
はじめに
整数計画問題や混合整数計画問題に対する近年のソルバの性能向上の要因として「前処理」がしばしばあげられます.前処理とは,比較的簡単な解析・推論をもとに原問題をより簡単な問題に変換するものであり,たとえば冗長な制約条件を除去する,決定変数のとりうる範囲を狭める(ないしは値を固定する)などの処理が含まれます.本記事では,とくに整数計画問題を対象とした主要な前処理手法を整理したうえで,メタヒューリスティクスを用いて整数計画問題を解く場合の探索性能への影響を確認します.分枝限定法・分枝カット法の性能向上に対する前処理の効果は各種 MIP ソルバにてじゅうぶんに実証されていますが,メタヒューリスティクスを題材とした調査・研究は少ないように思われます. このことが本記事を記した動機のひとつになっています.前回に引き続き,独自研究の色合いが強い記事となりますので,誤りや不正確な部分もあるかもしれません.ご容赦いただければ幸いです.
前処理に関する知見が広く記されたものとしては文献 [1] が有名です.このほか文献 [2] では集合分割問題,集合被覆問題に特化した前処理が整理されています.文献 [1] では,前処理をさらに "Preprocessing" と "Probing" の2つに分類していますが,本記事ではこれらをとくに区別せず,比較的簡単な解析・推論から原問題をより簡単な問題に変換する行為を総称して「前処理」とよぶこととします.
本記事では,各種前処理が有効に作用する具体例を示す目的で,整数計画問題/混合整数計画問題の標準的なベンチマークインスタンス集である MIPLIB 2017 のインスタンスを随所で参照しており,また数値実験にも利用しています.MIPLIB 2017 にはアルゴリズム開発の参考となるインスタンスが揃っており,各インスタンスの特徴に関する情報はそれなりに有益と考えています *1.MIPLIB 2017 の設計指針については文献 [3][4] が詳しく,興味をもたれた方はそちらもご参照いただければと思います。
対象とする問題
本記事では,(線形)整数計画問題
\begin{align}
(\mathrm{IP}): \underset{\boldsymbol{x}}{\mathrm{minimize}} \, & \sum_{j =1}^{M}c_{j}x_{j} \tag{1} \\
\mathrm{subject\,to} &\sum_{j =1}^{M} a_{ij}x_{j} \le(\ge, =) b_{i} \enspace(i = 1,\dots,N), \tag{2} \\
& l_{j} \le x_{j} \le u_{j} \enspace(j = 1,\dots,M), \tag{3} \\
& x_{j} \in \mathbb{Z} \enspace(j = 1,\dots,M) \tag{4}
\end{align}
を考えます.ただし,$N, M \in \mathbb{N}$ はそれぞれ制約条件と決定変数の数とし,インスタンスを記述するパラメータ$a_{ij}, b_{j}, c_{j}, l_{j}, u_{j}$ $(i=1,\dots,N, \, j=1,\dots,M)$ はいずれも実数とします.なお,議論を単純にするため,各制約条件単独に対しては実行可能解の存在が保証されるものと仮定します.
メタヒューリスティクス
$(\mathrm{IP})$ をメタヒューリスティクス*2を用いて近似的に解くことを考えます.本記事では,現在解 $\boldsymbol{x}$ に対して,上下限制約の範囲内で単一成分の値を $\pm1$ した解の集合 $\{\boldsymbol{x}' \in \mathbb{Z}^{M} \mid D(\boldsymbol{x}',\boldsymbol{x}) =1, \, \boldsymbol{l} \le \boldsymbol{x}' \le \boldsymbol{u} \}$ を基本的な近傍定義として採用するメタヒューリスティクスを想定します.ただし,$D(\boldsymbol{x}',\boldsymbol{x})$ は $\boldsymbol{x}', \boldsymbol{x} \in \mathbb{Z}^{M}$ 間の Manhattan 距離とします.文献 [5][6] などで提案されているアルゴリズムがこれに該当します.このような近傍定義を採用するメタヒューリスティクスでは,等式制約条件が厄介な存在となります.これは,同時に値が変更される変数が限られているために,一度満足した等式制約条件に含まれる決定変数の値を変更しようとする場合,再度の制約違反を余儀なくされるためです.この課題に対して,複数の変数の値を同時に変化させることで制約再違反を起こさずに(あるいは制約違反量を十分小さくしたまま)解を改善させていく工夫 [5][6] も提案されていますが,それだけでは対応しきれないような構造の制約条件も少なからず存在します.したがって, $(\mathrm{IP})$ にメタヒューリスティクスを適用する場合,等式制約条件の削減が大きなポイントとなります.
汎用的な前処理手法
準備
本節では,インスタンスの構造に依存せず適用できる汎用的な前処理手法を紹介します.以降の議論に備え,$(\mathrm{IP})$ を記述する決定変数の添字に関して以下の集合を導入します.
- $\mathcal{M}_{i}^{+}$ : 値が未固定であり,$i$ 番目の制約条件での係数が正である決定変数の添字集合
- $\mathcal{M}_{i}^{-}$ : 値が未固定であり,$i$ 番目の制約条件での係数が負である決定変数の添字集合
- $\mathcal{F}_{i}$ : 値が固定された決定変数のうち,$i$ 番目の制約条件での係数が非零のものの添字集合.固定された決定変数は $\bar{x}_{j}$ のように bar 付きで表記することとします.
各集合の構成要素(添字)は不変ではなく,前処理過程で更新されていくものとし,空集合をとることも許容します.以降ではこれらの集合表記を用いて $i$ 番目の制約を
$$
\sum_{j\in \mathcal{M}_{i}^{+}}a_{ij}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}_{i}^{-}}a_{ij}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}_{i}}a_{ij}\bar{x}_{j} \le(\ge, =) b_{i} \tag{5}
$$
と書くこととします.さらに,制約条件の番号 $i$ を特定する必要がない場合,あるいは文脈上明らかな場合は添字 $i$ を省略して
$$
\sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} \le(\ge, =) b \tag{6}
$$
と書くこととします(本記事を通じてほとんどがこちらの表記となっているかと思います).また本記事を通じて以下の表記法を採用します.
- $u \gets v$: パラメータ $u$ の値を $v$ で更新する(決定変数の上下限の強化など).
- $\bar{x} \equiv v$: 変数 $x$ の値を $v$ で固定する.
単一の決定変数や制約条件に着目するもの
本項で述べる前処理は,単一の決定変数や制約条件に着目し,制約関数の上下限値を検証しつつ,冗長な制約条件の除去や決定変数の上下限の強化・固定を図るものです.汎用的な前処理であり,多くの場合,制約条件や決定変数の削減にもっとも大きく貢献します.
本前処理は以下で述べる (1)-(5) のサブ処理から構成されます.なお,ここでは一般性を失わずに不等式制約条件の向きとして $(\le)$ のみを考えることとします.不等号の向きが逆 $(\ge)$ であるとき,以降の処理は適当に修正する必要があることにご注意ください.
(1) 制約条件に含まれない決定変数の値固定
どの制約条件にも含まれない決定変数 $x_{j'}$ がある場合,その値を目的関数の係数の符号に応じて以下のように固定します.
$$
\bar{x}_{j'} \equiv \begin{cases} l_{j'}, \enspace c_{j'} > 0 \\ u_{j'}, \enspace \mathrm{otherwise} \end{cases} \tag{7}
$$
(2) 冗長な制約条件の除去
制約条件が決定変数の値によらず,つねに実行可能となる場合,つまり
$$
\sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{j}u_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}l_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} \le b \tag{8}
$$
を満たすとき,あるいは $\mathcal{M}^{+} = \mathcal{M}^{-} =\emptyset$ かつ
$$
\sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} = b \tag{9}
$$
を満たすとき,当該制約を冗長なものとして除去します.
(3) 未固定の決定変数がただ 1 つ含まれる制約条件の除去
未固定の決定変数がただ 1 つ含まれる制約条件に対して,以下の方法で未固定の決定変数 $x_{j'}$ の上下限強化・固定をおこないつつ,当該制約を除去します.
- 前処理対象が不等式制約条件であり,$x_{j'}$ の係数が正の場合(変数の上限の強化)
$$
u_{j'} \gets \min \left(u_{j'}, \left\lfloor \frac{b - \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j}}{a_{j'}}\right\rfloor\right) \tag{10}
$$
- 前処理対象が不等式制約条件であり,$x_{j'}$ の係数が負の場合(変数の下限の強化)
$$
l_{j'} \gets \max \left(l_{j'}, \left\lceil \frac{b - \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j}}{a_{j'}}\right\rceil\right) \tag{11}
$$
- 前処理対象が等式制約条件の場合*3
$$
x_{j'} \equiv \frac{b - \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j}}{a_{j'}} \tag{12}
$$
(4) 決定変数の上下限強化
未固定の決定変数が 2 つ以上含まれる等式・不等式制約条件に対して,決定変数 $x_{j'} \, (j'\in \mathcal{M}^{+}\cup \mathcal{M}^{-})$ の上下限を以下の方法で強化します.ここでは制約条件の除去はできないことに注意します.
- $x_{j'}$ の係数が正の場合(変数の上限の強化)
$$
u_{j'} \gets \min \left(u_{j'}, \left\lfloor \frac{b - \sum_{j\in \mathcal{M}^{+}\setminus \{ j'\}}a_{j}l_{j} - \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}u_{j} - \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j}}{a_{j'}}\right\rfloor\right) \tag{13}
$$
- $x_{j'}$ の係数が負の場合(変数の下限の強化)
$$
l_{j'} \gets \max \left(l_{j'}, \left\lceil \frac{b - \sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{j}u_{j} - \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}\setminus \{ j'\}}a_{j}l_{j} - \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j}}{a_{j'}}\right\rceil\right) \tag{14}
$$
(5) 決定変数の固定
決定変数の上下限をチェックし,$l_{j'} = u_{j'}$ となっているものの値を $\bar{x}_{j'} \equiv l_{j'} (= u_{j'})$ と固定します.
これらの処理のうち,とくに (1)-(3) あたりは自明なものであり,果たして意味があるのか(これらが効くインスタンスはあるのか)という疑問が生じるかもしれません.後述するとおり,これらの前処理は各制約条件に対して一度適用して終わりではなく,他の前処理結果の影響を反映しつつ繰り返し適用していくことになります.実際には最初の前処理で (1)-(3) により制約条件や決定変数が除去されることは稀であり,どちらかといえば (4), (5) の結果を受けて (1)-(3) の処理が有効になるというイメージです.
ところで,「前処理」とは少し異なりますが,(4), (5) の処理を最適化計算の実行中に適用することで,(前処理段階ではできなかった)決定変数の上下限強化や固定が可能となる場合もあります.最適化計算の過程で発見した目的関数値の上界値を $\hat{f}$ とするとき,
$$
\sum_{j =1}^{M}c_{j}x_{j} \le \hat{f} \tag{15}
$$
という制約条件を追加しても最適解は変化しないという点に注意します.そこで,上界値が更新されたタイミングで (4), (5) の処理を (15) 式に対して適用します*4.この方法は,一部の決定変数に対する目的関数の係数が非常に大きいインスタンス(Semi-Hard 制約を含むインスタンスなど)や,「最大値最小化」型の構造をとるインスタンスに対して有効です. MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスではたとえば academictimetablesmall, netdiversion, 30n20b8 に対して効果を発揮します.
複数の制約条件に着目するもの
複数の制約条件に対する前処理のうち,2 つの制約条件の比較に基づく比較的単純なものを紹介します.なおこれらの前処理は,メタヒューリスティクスの探索挙動の改善には直接寄与しません*5.おもに近傍解評価の効率化を意図して実施するものになります.
(1) 不等式制約条件ペアの等式制約条件への統合
$a_j \, (j \in \mathcal{M}^{+} \cup \mathcal{M}^{-})$ および $b$ が完全に同一で,不等式の向きのみが異なる不等式制約条件ペア
\begin{align}
\sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{ j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} \le b \tag{16} \\
\sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{ j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} \ge b \tag{17}
\end{align}
があったとき,これを等式制約条件
$$
\sum_{j\in \mathcal{M}^{+}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{M}^{-}}a_{j}x_{j} + \sum_{j\in \mathcal{F}}a_{j}\bar{x}_{j} = b \tag{18}
$$
として統合します.
(2) 不等式制約条件の重複除去
係数も不等式の向きも完全に同一の不等式制約条件が複数存在する場合,どれかひとつを残して他を除去します.
ところで,2 つの制約条件を対象とした前処理は,ナイーブな実装だと $O(N^2)$ の計算量を要するため,大規模な問題ではかなりの計算時間を必要とします.これを改善する方法としては Hash 値を利用した比較範囲の絞り込みが有効です.具体的な手順は以下のようになります.
- i) 各制約条件に対して,$a_{j}$ や $b$ の情報をもとに適当な Hash 値を計算しておく.
- ii) 各制約条件を Hash 値でソートする.
- iii) Hash 値が同じ制約条件同士に対してのみ,前処理に必要な比較をおこなう.
この方法でも最悪計算量は変わらないのですが,Hash 値が同じとなる(=前処理での比較対象となる)制約条件の数はよほど病的・敵対的なインスタンスでないかぎり僅少であり,ほとんどのインスタンスに対してはこの方法でじゅうぶん高速に処理できます.以降でも複数の制約条件や決定変数を対象とする前処理がいくつか出てきますが,いずれも同様の方法が有効です.
上で述べた,2 つの制約条件の比較に基づく前処理が有効な MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスには以下のものがあります.個人的には思った以上に多くのインスタンスに効くという印象です.
- 不等式制約条件対の等式制約条件への統合が有効なインスタンス
academictimetablesmall, brazil3, n3div36, neos-2657525-crna, neos-3555904-turama, neos-3988577-wolgan, neos-957323, neos-960392, netdiversion, rail01, rail02, rococoC10-001000, sp97ar
- 不等式制約条件の重複除去が有効なインスタンス
fast0507, n2seq36q, n3div36, cryptanalysiskb128n5obj14, cryptanalysiskb128n5obj16, decomp2, ex10, ex9, highschool1-aigio, hypothyroid-k1, n2seq36q, neos-3555904-turama, sp97ar, supportcase10
特殊な構造・問題に対する前処理手法
本節では,一部の特殊な構造・問題に対して適用可能な前処理手法を紹介します.
集合分割問題・集合被覆問題
集合分割問題 $(\mathrm{SPP})$・集合被覆問題 $(\mathrm{SCP})$ はそれぞれ以下の形式をとる 0-1 整数計画問題です.集合分割問題は等式制約条件のみから構成されるのに対して,集合被覆問題は不等式制約条件 ($\ge$) のみから構成されます*6.
$$
\begin{align}
(\mathrm{SPP}): \underset{\boldsymbol{x}}{\mathrm{minimize}} \, & \sum_{j=1}^{M} c_{j}x_{j} \tag{19} \\
\mathrm{subject\,to} &\sum_{j =1}^{M} a_{ij}x_{j} = 1 \quad (i = 1,\dots,N), \tag{20} \\
& x_{j} \in \{0,1\} \quad (j = 1,\dots,M), \tag{21} \\
\mathrm{where} \, & a_{ij} \in \{0,1\} \quad (i = 1,\dots,N, \, j=1,\dots,M). \tag{22}
\end{align}
$$
$$
\begin{align}
(\mathrm{SCP}): \underset{\boldsymbol{x}}{\mathrm{minimize}} \, & \sum_{j=1}^{M} c_{j}x_{j} \tag{23} \\
\mathrm{subject\,to} &\sum_{j =1}^{M} a_{ij}x_{j} \ge 1 \quad (i = 1,\dots,N), \tag{24} \\
& x_{j} \in \{0,1\} \quad (j = 1,\dots,M), \tag{25} \\
\mathrm{where} \, & a_{ij} \in \{0,1\} \quad (i = 1,\dots,N, \, j=1,\dots,M). \tag{26}
\end{align}
$$
以降では,$j$ 番目の決定変数が被覆する制約条件の添字集合を $\mathcal{S}_{j}$ と書き,また $i$ 番目の制約を被覆しうる決定変数の添字集合を $\mathcal{V}_{i}$ と書くことにします.
集合分割問題に対しては,上で述べてきた前処理のほか,以下に示す問題特有の前処理を適用することが可能です.
- a. $j_{1} \neq j_{2} \, (j_{1}, j_{2} = 1,\dots,M)$ に対して $c_{j_{1}} < c_{j_{2}}$ かつ $\mathcal{S}_{j_{1}} = \mathcal{S}_{j_{2}}$ であるとき,$\bar{x}_{j_2}\equiv 0$ とする.
- b. $j_{1} < j_{2}\, (j_{1}, j_{2} = 1,\dots,M)$ に対して $c_{j_{1}} \le c_{j_{2}}$ かつ $\mathcal{S}_{j_{1}} = \mathcal{S}_{j_{2}}$ であるとき,$\bar{x}_{j_2}\equiv 0$ とする.
- c. $i_{1} \neq i_{2}\, (i_{1}, i_{2} = 1,\dots,N)$ に対して $\mathcal{V}_{i_1} \subset \mathcal{V}_{i_2} $ であるとき,$i_2$ 番目の制約条件を除去する.あわせてすべての $j' \in \mathcal{V}_{i_2} \setminus \mathcal{V}_{i_1}$ に対して $\bar{x}_{j'}\equiv 0$ とする.
集合被覆問題に対しても,集合分割問題と類似した以下の前処理を適用することが可能です.
- a. $j_{1}\neq j_{2}\, (i_{1}, i_{2} = 1,\dots,M)$ に対して $c_{j_{1} }< c_{j_{2}}$ かつ $\mathcal{S}_{j_{2}} \subseteq \mathcal{S}_{j_{1}}$ であるとき,$\bar{x}_{j_2}\equiv 0$ とする.
- b. $j_{1} < j_{2}\, (i_{1}, i_{2} = 1,\dots,M)$ に対して $c_{j_{1}} \le c_{j_{2}}$ かつ $\mathcal{S}_{j_{2}} \subseteq \mathcal{S}_{j_{1}}$ であるとき,$\bar{x}_{j_2}\equiv 0$ とする.
- c. $i_{1} \neq i_{2}\, (i_{1}, i_{2} = 1,\dots,N)$ に対して $\mathcal{V}_{i_1} \subset \mathcal{V}_{i_2} $ であるとき,$i_2$ 番目の制約条件を除去する.
これらの前処理が有効な MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスとして air05 があげられます.また Open インスタンスである大規模な集合分割問題 t1722, t1717, ds-big, ivu06, ivu59 に対しても有効です.これらのインスタンスに対して上述の前処理を適用したときの決定変数削減効果を 表 1 に示しておきます.
No. | インスタンス | 決定変数(前処理なし) | 決定変数(前処理後) | 削減率 |
---|---|---|---|---|
1 | air05 | 7195 |
6486 |
9.85% |
2 | t1722 | 36630 |
6581 |
82.03% |
3 | t1717 | 73885 |
16428 |
77.77% |
4 | ds-big | 174997 |
173029 |
1.12% |
5 | ivu06 | 787239 |
771919 |
1.95% |
6 | ivu59 | 2569996 |
2567764 |
0.09% |
中間変数を定義する等式制約条件
整数計画問題のモデリングでは,モデルの記述の見通しのよさを確保するため,中間変数 $y$ の定義に相当する以下のような等式制約条件を導入することがあります.
\begin{align}
y = \sum_{j = 1}^{N} a_{j}x_{j} + b \tag{27} \\
l_{y} \le y \le u_{y} \tag{28}
\end{align}
ただし,$a_{j} \in \mathbb{Z} \, (j = 1,\dots,N), b, l_{y}, u_{y} \in \mathbb{Z}$ とします.このような制約条件がある場合,他式中の $y$ に対して (27) 式を代入し,かわりに 2 つの不等式制約条件
$$
l_{y} \le \sum_{j = 1}^{N} a_{j}x_{j} + b \le u_{y} \tag{29}
$$
を追加することで決定変数 1 つと等式制約条件 1 つを除去できます.ただし,相互に依存関係をもつ中間変数群に対して上述の方法を適用すると,計算手順によっては無限ループが発生する可能性があるため,相互依存関係をもつ中間変数(の定義式)を前処理対象外とするなどの工夫が必要です*7.簡易的な方法としては,候補として抽出された中間変数を頂点,中間変数間の依存の向きを辺とする有向グラフを考え,可到達行列を計算して相互に到達可能な頂点(中間変数)を検知し,前処理対象から除外する方法が考えられます.
上述の手順を,以下の数値例(中間変数を定義する等式制約群)を用いて説明します.ただしここで関心があるのは$y_{1}, y_{2}, y_{3}, y_{4},y_{5}$の配置であり,$x_{1}, x_{2}$に関する項や定数項については(具体例である以上の)意味はありません。
\begin{align}
y_{1} & = 2 x_{1} + 3 x_{2} + 4 \tag{30} \\
y_{2} & = y_{1} + 4 x_{1} - 2 x_{2} + 5 \tag{31} \\
y_{3} & = y_{4} -3 x_{1} + 5 x_{2} - 2 \tag{32} \\
y_{4} & = y_{5} + x_{1} + x_{3} + 3 \tag{33} \\
y_{5} & = y_{3} + 5 x_{1} - 3 x_{2} + 1 \tag{34}
\end{align}
本例では,$y_{1}, y_{2}, y_{3}, y_{4},y_{5}$ が中間変数の候補であり,その依存関係を有向グラフとして表現したときの隣接行列 $\boldsymbol{A}$ と可到達行列 $\boldsymbol{R}$ はそれぞれ以下のようになります.ただし隣接行列の定義では,中間変数 $i$ の定義式に中間変数 $j$ が含まれるとき $a_{ij}=1$,そうでないとき$a_{ij}=0$ としています.
$$
\boldsymbol{A} =\begin{pmatrix}
0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
\end{pmatrix}, \enspace \boldsymbol{R} =\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\
0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\
0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\
\end{pmatrix}
$$
可到達行列 $\boldsymbol{R}$ の非対角成分ペア $(i \neq j )$ に対して $r_{ij}= r_{ji}=1$ であるとき $i, j$(に対応する中間変数)には相互依存関係があります.上の例でいうと $y_{3}, y_{4}, y_{5}$ が互いに依存関係をもっています.そこでこの例の場合では,(31) 式に対する (30) 式の代入のみを実行することにより無限ループを安全に回避できます.
この前処理は,メタヒューリスティクスを用いて $(\mathrm{IP})$ を解く際,一部のインスタンスに対して絶大な威力を発揮するため,個人的におすすめの前処理のひとつです.しかし,上述の方法で抽出される中間変数をすべて除去してよいかというと少し微妙で,とくに 0-1 変数の削除は慎重を期したほうがよいと考えています.性能悪化に繋がりやすい例を 2 つほどあげておきます.
- a. 2 つの 0-1 変数をつなぐ等式制約条件
(例:$x_{1} = x_{2} \, (x_{1}, x_{2}\in\{0,1\})$)
- b. スラック変数を含む等式制約条件
(例:$\sum_{j \in \mathcal{J}} x_{j} + y = 1, x_{j} \in \{0, 1\} \, (j \in \mathcal{J}) , y \in \{0, 1\}$, $\mathcal{J}$ は決定変数に関する適当な添字集合,$y$ は大きな正係数 $w$をともなって目的関数に現れるものとします)
まず a. に関して補足します.メタヒューリスティクス分野でよく知られた近傍設計のコツのひとつとして,解の変更をなるべく局所的なものに抑えるというのがあります.複数の 0-1 変数をこの方法でまとめてしまうと,近傍移動によって解の大域的な構造が破壊されるようになり,Proximate Optimality Principle *8に基づく解探索が阻害されるためか,性能が低下してしまう例も多いです.もしこの類の制約に前処理を適用した結果よい性能が出ない場合,特定の 0-1 変数が解の大域的構造に影響しすぎていないかをチェックするのがよいと思います*9.
b. に関しては,目的関数のレンジが本来のものより広くなることに関して注意が必要です*10.制約違反量に対するペナルティ係数を経時的に調整するメタヒューリスティクスを用いる場合,このことが原因でペナルティ係数機構の動作が不安定化する場合があります.
この前処理が有効な MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスには以下のものがあります.
30n20b8, academictimetablesmall, brazil3, cryptanalysiskb128n5obj14, cryptanalysiskb128n5obj16, highschool1-aigio, hypothyroid-k1, mzzv11, mzzv42z, neos-1354092, neos-2657525-crna, neos-3083819-nubu, neos-662469, neos-950242, proteindesign121hz512p9, proteindesign122trx11p8, rail01, rail02, rococoB10-011000, rococoC10-001000, square41, square47, supportcase19, supportcase6
専用アルゴリズムを適用することで簡単に解ける問題構造
いわゆる「前処理」とは少し違うかもしれませんが,メタヒューリスティクスや分枝限定法を用いずとも,簡単な計算により $(\mathrm{IP})$ の最適解が求まる例をひとつあげておきます.以下の形式をとる 0-1 整数計画問題を考えます.
\begin{align}
(\mathrm{P}_{\mathbb{Z/2Z}}): \underset{\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}}{\mathrm{minimize}} \, & \sum_{j=1}^{N} c_{j}x_{j} \tag{35} \\
\mathrm{subject\,to} &\sum_{j =1}^{N} a_{ij}x_{j} = 2y_{i} + b_{i} \quad (i = 1,\dots,N), \tag{36} \\
& x_{j} \in \{0,1\} \quad (j = 1,\dots,N), \tag{37} \\
& y_{i} \in \mathbb{Z} \quad (i = 1,\dots,N), \tag{38} \\
\mathrm{where} \, & a_{ij} \in \{0,1\} \quad (i,j = 1,\dots,N),\tag{39} \\
\, & b_{i} \in \{0,1\} \quad (i = 1,\dots,N). \tag{40}
\end{align}
制約条件のうち (36) 式は 各式左辺の値が偶数・奇数のどちらであるかを規定するものであり,$y_{i}$ は帳尻をあわせるためのダミー変数です.本制約条件が定める構造は2 元体上の連立方程式と等価であり,これを解くことで(解が存在するのであれば)最適解を求めることができます.2 元体上の連立方程式は Gauss の消去法を用いて解くことできます.具体的な実装については以下のブログ記事に非常にわかりやすい解説と例示があるため,本記事では記述を割愛させていただきます.
drken1215.hatenablog.com
MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスのうち,enlight_hard がこの構造をとります.その名から類推されるとおり(?)上のブログでも解説されている「ライツアウト (enlight)」とよばれるゲームのインスタンスのようです. enlight_hard は,200 変数という小規模なインスタンスながら,これに類する前処理が組み込まれていない分枝限定法ベースの MIP ソルバではなかなか最適解が求まりません*11.
文脈的にはアルゴリズムというよりはソルバとしての性能向上の議論になりますが,このように,解きやすいアルゴリズムが存在する問題構造の検出を図るアプローチも有効かと思われます.
複数の要素からの選択
整数計画問題では,$ \sum_{j\in \mathcal{J}}x_{j} = 1$ という形式の制約条件(Set Partitioning 制約)が頻出します.ただし ${\mathcal{J}}$ は適当な添字集合で,$x_{j} \, (j \in \mathcal{J})$ は 0-1 変数であるとします. Set Partitioning 制約はその名のとおり,上述した集合分割問題を記述する制約条件でもあるのですが,「複数の要素からちょうどひとつを選択する」という意図で用いられることも多く,スケジューリング問題等で頻出します.本記事ではこの意図で用いられている Set Partitioning 制約を Selection 制約とよぶことにします.Selection 制約に対しては,「${\mathcal{J}}$ のなかで値 1 をとる変数を交換する」という近傍の定義を採用することで,当該制約を遵守したまま近傍探索が可能となります.
ひとつ注意しなければならないのは,Selection 制約が複数あり,それぞれに対応する添字集合同士が共通部分をもつケースです.この場合,上述の方法による近傍定義はできないため,独立した添字集合の組合せを抽出する必要があります.具体的な方法としてはたとえば
- a. 添字集合の独立性を維持しつつ,適当な順番(制約条件番号,添字集合の要素数の大小など)で抽出するもの
- b. はじめから他のすべての Selection 制約と独立しているもののみを抽出するもの
- c. この問題自体を組合せ最適化問題(集合パッキング問題)として定式化して解いて求めるもの
などが考えられます.経験的には b. がモデリングの思想(Selection 制約としての意図)を一番うまく抽出でき,性能面でも優れていることが多いように思います.上述のうち b. の方法を用いた場合に Selection 制約が抽出される MIPLIB 2017 Benchmark set のインスタンスには以下のものがあります.
academictimetablesmall, bab6, neos-1354092, netdiversion, neos-4738912-atrato, neos-3004026-krka, decomp2, highschool1-aigio, brazil3, 30n20n8, supportcase6, co-100, proteindesign121hz512p9,
proteindesign122trx11p8, rail02, rococoC10-001000, n2seq36q, rail01, bab2, chromaticindex512-7, chromaticindex1024-7
前処理の流れ
個別の前処理手法を組み込んだ,全体としての前処理の流れについて整理しておきます.これまで述べてきた各前処理手法はその結果が互いに影響を及ぼします.一度実行した前処理であっても,他の手法において改善(制約条件の除去や決定変数の上下限強化・固定)があった場合に,これを再度実行することでさらなる改善が得られるケースもあります.したがって,前処理全体のプロセスとしては,各手法を順番に繰り返し適用し,最終的にどの手法を適用しても改善がみられなくなった段階で処理を終了します.
前処理の効果
本記事で紹介した前処理の効果を数値実験で確認します.インスタンスとしては MIPLIB 2017 Benchmark set のうち純整数計画問題 89 インスタンス,メタヒューリスティクスソルバとしては重み付け Tabu Search [7] に基づく自作整数計画ソルバ PRINTEMPS を使用しました.
その他詳細な計算条件は以下のとおりです.
- PRINTEMPSのバージョン:2.1.1
- 計算時間: 1 インスタンスあたり 600 秒*12
- OS:Ubuntu 22.04
- コンパイラ:g++11.2.0
- CPU:Intel(R) Xeon(R) CPU E3-1270 v5 @ 3.60GHz
- RAM:16GB
図 1 に,前処理適用による決定変数・制約条件の削減効果を示します.また 表 2 に,各インスタンスに対する具体的な前処理前後の決定変数・制約条件の数と,前処理の有無それぞれのもと得られた目的関数値(制約違反量)を示します.表 2では,オープンソースの MIP ソルバである CBC 2.10.8 を同一計算環境・計算条件のもと各インスタンスに適用して得られた結果もあわせて示しています.ただしこれは,メタヒューリスティクスがインスタンスによっては (よい上界値を得るという意味で)MIP ソルバに比肩することを例示するためであり,ソルバ全体としての性能評価を目的としたものではないことを強調しておきます*13.よって,以降でも CBC の結果についてはとくに議論しないこととします。
No. | インスタンス | 決定変数 | 制約条件 | 目的関数値(制約違反量) | |||||
前処理なし | 前処理後 | 前処理なし | 前処理後 | 前処理なし | 前処理後 | CBC 2.10.8 | 最適値 | 1 | reblock115 | 1150 | 1150 | 4735 | 4735 | -3.553e+07 | -3.553e+07 | -3.674e+07 | -3.680e+07 | 2 | academictimetablesmall | 28926 | 25993 | 23294 | 17624 | (1.200e+01) | 6.720e+02 | (no solution) | 0.000e+00 | 3 | bab6 | 114240 | 114240 | 29904 | 29883 | (6.300e+01) | (5.600e+01) | (no solution) | -2.842e+05 | 4 | gen-ip002 | 41 | 41 | 24 | 24 | -4.784e+03 | -4.784e+03 | *-4.784e+03 | -4.784e+03 | 5 | gen-ip054 | 30 | 30 | 27 | 27 | 6.841e+03 | 6.853e+03 | 6.841e+03 | 6.841e+03 | 6 | comp21-2idx | 10863 | 10752 | 14038 | 13961 | 1.080e+02 | 1.090e+02 | (no solution) | 7.400e+01 | 7 | comp07-2idx | 17264 | 17187 | 21235 | 21189 | 8.000e+00 | 8.000e+00 | (no solution) | 6.000e+00 | 8 | neos859080 | 160 | 160 | 164 | 160 | (1.000e+00) | (1.000e+00) | (no solution) | Infeasible | 9 | neos-787933 | 236376 | 236376 | 1897 | 1897 | 3.800e+01 | 3.800e+01 | 3.000e+01 | 3.000e+01 | 10 | air05 | 7195 | 6486 | 426 | 358 | 2.658e+04 | 2.645e+04 | *2.637e+04 | 2.637e+04 | 11 | mzzv42z | 11717 | 11717 | 10460 | 10511 | -1.684e+04 | -1.881e+04 | *-2.054e+04 | -2.054e+04 | 12 | nu25-pr12 | 5868 | 5834 | 2313 | 2274 | 5.536e+04 | 5.482e+04 | *5.390e+04 | 5.390e+04 | 13 | irp | 20315 | 19370 | 39 | 39 | 1.216e+04 | 1.216e+04 | *1.216e+04 | 1.216e+04 | 14 | qap10 | 4150 | 4150 | 1820 | 1820 | 3.640e+02 | 3.640e+02 | *3.400e+02 | 3.400e+02 | 15 | neos8 | 23228 | 23116 | 46324 | 46212 | -3.717e+03 | -3.717e+03 | *-3.719e+03 | -3.719e+03 | 16 | sp98ar | 15085 | 15085 | 1435 | 1429 | 5.472e+08 | 5.466e+08 | 5.306e+08 | 5.297e+08 | 17 | neos-960392 | 59376 | 59376 | 4744 | 4230 | -2.380e+02 | -2.380e+02 | *-2.380e+02 | -2.380e+02 | 18 | enlight_hard | 200 | 0 | 100 | 100 | (1.000e+00) | *3.700e+01 | *3.700e+01 | 3.700e+01 | 19 | neos-1582420 | 10100 | 10100 | 10180 | 10180 | 9.500e+01 | 9.500e+01 | *9.100e+01 | 9.100e+01 | 20 | fast0507 | 63009 | 63002 | 507 | 484 | 1.770e+02 | 1.780e+02 | *1.740e+02 | 1.740e+02 | 21 | neos-950242 | 5760 | 5760 | 34224 | 33984 | (1.000e+00) | 4.000e+00 | *4.000e+00 | 4.000e+00 | 22 | neos-662469 | 18235 | 18235 | 1085 | 1085 | 2.155e+05 | 3.457e+05 | 1.844e+05 | 1.844e+05 | 23 | neos-957323 | 57756 | 57756 | 3757 | 3243 | -2.377e+02 | -2.377e+02 | *-2.378e+02 | -2.378e+02 | 24 | nw04 | 87482 | 46190 | 36 | 36 | 1.690e+04 | 1.704e+04 | *1.686e+04 | 1.686e+04 | 25 | neos-1354092 | 13702 | 13702 | 3135 | 1666 | (2.000e+00) | 4.800e+01 | 5.500e+01 | 4.600e+01 | 26 | mzzv11 | 10240 | 10240 | 9499 | 9544 | -1.863e+04 | -1.956e+04 | *-2.172e+04 | -2.172e+04 | 27 | netdiversion | 129180 | 129180 | 119589 | 99913 | (2.000e+00) | (2.000e+00) | 3.840e+02 | 2.420e+02 | 28 | sorrell3 | 1024 | 1024 | 169162 | 169162 | -1.600e+01 | -1.600e+01 | (no solution) | -1.600e+01 | 29 | bnatt400 | 3600 | 2003 | 5614 | 4006 | (3.577e+00) | (2.593e+00) | (no solution) | 1.000e+00 | 30 | tbfp-network | 72747 | 72747 | 2436 | 2436 | 2.916e+01 | 2.916e+01 | 2.687e+01 | 2.416e+01 | 31 | glass-sc | 214 | 214 | 6119 | 6119 | 2.300e+01 | 2.300e+01 | 2.300e+01 | 2.300e+01 | 32 | ex9 | 10404 | 8560 | 40962 | 33779 | (4.000e+01) | 8.100e+01 | (no solution) | 8.100e+01 | 33 | neos-3024952-loue | 3255 | 3255 | 3705 | 3705 | 1.145e+05 | 1.171e+05 | (no solution) | 2.676e+04 | 34 | neos-4738912-atrato | 6216 | 6216 | 1947 | 1939 | 3.300e+08 | 3.193e+08 | 2.851e+08 | 2.836e+08 | 35 | neos-3083819-nubu | 8644 | 7940 | 4725 | 4183 | 6.611e+06 | 6.591e+06 | *6.308e+06 | 6.308e+06 | 36 | neos-2657525-crna | 524 | 522 | 342 | 307 | (7.659e-01) | 1.811e+00 | 1.373e+01 | 1.811e+00 | 37 | neos-3381206-awhea | 2375 | 2375 | 479 | 479 | 4.530e+02 | 4.530e+02 | *4.530e+02 | 4.530e+02 | 38 | neos-5052403-cygnet | 32868 | 27642 | 38268 | 38268 | 2.010e+02 | 2.010e+02 | (no solution) | 1.820e+02 | 39 | neos-3004026-krka | 17030 | 17030 | 12545 | 8320 | *0.000e+00 | *0.000e+00 | (no solution) | 0.000e+00 | 40 | nursesched-sprint02 | 10250 | 10210 | 3522 | 3512 | 6.100e+01 | 6.200e+01 | *5.800e+01 | 5.800e+01 | 41 | nursesched-medium-hint03 | 34248 | 33990 | 14062 | 13672 | 6.790e+02 | 8.170e+02 | (no solution) | 1.150e+02 | 42 | sp97ar | 14101 | 14101 | 1761 | 1705 | 6.814e+08 | 6.776e+08 | 6.704e+08 | 6.607e+08 | 43 | graph20-20-1rand | 2183 | 2146 | 5587 | 5180 | -9.000e+00 | -9.000e+00 | -8.000e+00 | -9.000e+00 | 44 | wachplan | 3361 | 3004 | 1553 | 1423 | -8.000e+00 | -8.000e+00 | -8.000e+00 | -8.000e+00 | 45 | decomp2 | 14379 | 14379 | 10765 | 8473 | -1.600e+02 | *-1.600e+02 | *-1.600e+02 | -1.600e+02 | 46 | highschool1-aigio | 320404 | 305241 | 92568 | 82741 | (8.408e+03) | (9.282e+03) | (no solution) | 0.000e+00 | 47 | brazil3 | 23968 | 17802 | 14646 | 10000 | (5.100e+01) | 3.340e+02 | 9.700e+01 | 2.400e+01 | 48 | eilA101-2 | 65832 | 65832 | 100 | 100 | 1.003e+03 | 1.003e+03 | 1.276e+03 | 8.809e+02 | 49 | 30n20b8 | 11098 | 8033 | 576 | 519 | (5.000e+00) | 3.020e+02 | (no solution) | 3.020e+02 | 50 | supportcase18 | 13410 | 13410 | 240 | 240 | 4.900e+01 | 4.900e+01 | 5.100e+01 | 4.800e+01 | 51 | supportcase6 | 130052 | 130052 | 771 | 769 | 6.240e+04 | 6.228e+04 | 5.198e+04 | 5.191e+04 | 52 | supportcase22 | 7129 | 7129 | 260602 | 260602 | (1.000e+00) | (1.000e+00) | (no solution) | Infeasible | 53 | supportcase10 | 14770 | 14594 | 165684 | 165272 | (7.510e+02) | (7.700e+02) | (no solution) | 7.000e+00 | 54 | supportcase19 | 1429098 | 1429097 | 10713 | 10833 | (6.000e+00) | (8.000e+00) | (no solution) | 1.268e+07 | 55 | n3div36 | 22120 | 22120 | 4484 | 4455 | 1.314e+05 | 1.314e+05 | 1.310e+05 | 1.308e+05 | 56 | cvs16r128-89 | 3472 | 3472 | 4633 | 4633 | -9.400e+01 | -9.400e+01 | -9.300e+01 | -9.700e+01 | 57 | co-100 | 48417 | 48114 | 2187 | 2104 | 2.772e+06 | 2.752e+06 | 6.136e+06 | 2.640e+06 | 58 | lectsched-5-obj | 21805 | 10623 | 38884 | 16701 | (2.817e+03) | 3.600e+01 | (no solution) | 2.400e+01 | 59 | neos-3555904-turama | 37461 | 33362 | 146493 | 107302 | (1.000e+00) | (1.000e+00) | (no solution) | -3.470e+01 | 60 | neos-3988577-wolgan | 25870 | 25870 | 44662 | 44147 | (8.000e+00) | (7.000e+00) | *Infeasible | Infeasible | 61 | neos-2075418-temuka | 122304 | 122304 | 349602 | 349602 | (4.170e+02) | (4.170e+02) | (no solution) | Infeasible | 62 | splice1k1 | 3253 | 3253 | 6505 | 6504 | -3.600e+01 | -3.220e+02 | (no solution) | -3.940e+02 | 63 | hypothyroid-k1 | 2599 | 2599 | 5195 | 5189 | -2.851e+03 | -2.851e+03 | -2.851e+03 | -2.851e+03 | 64 | cryptanalysiskb128n5obj16 | 47622 | 44144 | 98021 | 77093 | (2.832e+03) | (1.499e+03) | (no solution) | 0.000e+00 | 65 | proteindesign121hz512p9 | 159145 | 78360 | 301 | 159 | (6.800e+01) | 1.488e+03 | (no solution) | 1.473e+03 | 66 | k1mushroom | 8210 | 8210 | 16419 | 16418 | -1.136e+03 | -3.288e+03 | (no solution) | -3.288e+03 | 67 | cryptanalysiskb128n5obj14 | 47622 | 44144 | 98021 | 77039 | (7.010e+02) | (3.430e+02) | (no solution) | Infeasible | 68 | proteindesign122trx11p8 | 127326 | 74963 | 254 | 169 | (3.700e+01) | 1.752e+03 | 1.757e+03 | 1.747e+03 | 69 | peg-solitaire-a3 | 4552 | 4199 | 4587 | 4232 | (3.000e+00) | (1.000e+00) | (no solution) | 1.000e+00 | 70 | cod105 | 1024 | 1024 | 1024 | 1024 | -1.200e+01 | -1.200e+01 | -1.200e+01 | -1.200e+01 | 71 | supportcase33 | 20196 | 7381 | 20489 | 3729 | -9.500e+01 | -1.350e+02 | -1.600e+02 | -3.450e+02 | 72 | rail02 | 270869 | 270867 | 95791 | 95628 | (1.800e+01) | (1.500e+01) | (no solution) | -2.004e+02 | 73 | ns1952667 | 13264 | 13263 | 41 | 40 | (2.600e+01) | (2.200e+01) | (no solution) | 0.000e+00 | 74 | seymour | 1372 | 1255 | 4944 | 4827 | 4.240e+02 | 4.240e+02 | 4.280e+02 | 4.230e+02 | 75 | ex10 | 17680 | 15936 | 69608 | 62976 | (5.400e+01) | (5.200e+01) | (no solution) | 1.000e+02 | 76 | rococoC10-001000 | 3117 | 2566 | 1293 | 570 | (6.600e+01) | 1.171e+04 | 1.146e+04 | 1.146e+04 | 77 | n2seq36q | 22480 | 22480 | 2565 | 2411 | 5.600e+04 | 5.240e+04 | 5.220e+04 | 5.220e+04 | 78 | bnatt500 | 4500 | 2529 | 7029 | 5058 | (4.577e+00) | (2.968e+00) | (no solution) | Infeasible | 79 | s100 | 364417 | 334736 | 14733 | 14057 | -1.428e-01 | -1.387e-01 | (no solution) | -1.697e-01 | 80 | opm2-z10-s4 | 6250 | 6250 | 160633 | 160633 | -3.013e+04 | -3.013e+04 | -1.874e+03 | -3.327e+04 | 81 | square47 | 95030 | 35733 | 61591 | 2251 | (2.000e+00) | 5.200e+01 | (no solution) | 1.600e+01 | 82 | square41 | 62234 | 23828 | 40160 | 1717 | (2.000e+00) | 2.200e+01 | (no solution) | 1.500e+01 | 83 | rail01 | 117527 | 117526 | 46843 | 46706 | (1.500e+01) | (2.200e+01) | (no solution) | -7.057e+01 | 84 | rococoB10-011000 | 4456 | 3646 | 1667 | 720 | (8.300e+01) | 2.515e+04 | 2.126e+04 | 1.945e+04 | 85 | neos-631710 | 167056 | 167056 | 169576 | 169576 | 2.060e+02 | 2.060e+02 | (no solution) | 2.030e+02 | 86 | bab2 | 147912 | 146248 | 17245 | 16986 | (7.300e+01) | (8.800e+01) | (no solution) | -3.575e+05 | 87 | chromaticindex512-7 | 36864 | 36864 | 33791 | 24576 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 88 | chromaticindex1024-7 | 73728 | 73728 | 67583 | 49152 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 4.000e+00 | 89 | eil33-2 | 4516 | 4516 | 32 | 32 | 9.340e+02 | 9.340e+02 | *9.340e+02 | 9.340e+02 |
図 1 は,$x$ 軸,$y$ 軸の値が大きいプロット(に対応するインスタンス)ほど,前処理による決定変数・制約条件の削減効果が大きいことを示しています.前処理効果のないインスタンスも多いですが,決定変数や制約条件のうち半分近くが削減できるインスタンスも稀ではないことが見てとれるかと思います.ちなみに決定変数の削減率が 100% となっているのは前掲の enlight_hard です.
表 2 をみると,前処理の適用により,全体的に性能が改善していることがわかります.とくに前処理なしでは実行可能解が得られていなかったインスタンスのうち 15 題に対して,実行可能解を得ることに成功しており,メタヒューリスティクスに対しても前処理は重要であるということが確認できました.性能向上に対する貢献が比較的大きいのは「複数要素からの選択」に対する特殊近傍の採用であり,ついで中間変数の削除があげられます.これらはメタヒューリスティクスにとっては実質的に近傍構造を変化させるものであり,「近傍定義が重要」というメタヒューリスティクス設計のセオリーの実証にもなっているかと思います.
おわりに
個人的に思う前処理の面白いところは 「単純なルールが相互に影響しあって大きな効果を生む」という点にあります.正直なところ,整数計画ソルバを開発し始めた当初は前処理をあまり重要視していなかったのですが,一度実装してその効果を確認したとき,とても感動したのを覚えています.本記事を通じて前処理の面白さが少しでも伝われば幸いです.
長くなってしまいましたが,最後までお付き合いいただきありがとうございました.それではよいお年をお過ごしください.
参考文献
- [1] M.W.P. Savelsbergh: Preprocessing and Probing Techniques for Mixed Integer Programming Problems, ORSA Journal on Computing Vol.6, No.4, pp.445-454 (1994).
- [2] 今野浩, 鈴木久敏「整数計画法と組合せ最適化」日科技連 (1982).
- [3] A.Gleixner, G.Hendel, G.Gamrath, T.Achterberg, M.Bastubbe, T.Berthold, P.M.Christophel, K.Jarck, T.Koch, J.Linderoth, M.L\"ubbecke, H.D.Mittelmann, D.Ozyurt, T.K.Ralphs, D.Salvagnin, Y.Shinano: MIPLIB 2017: Data-Driven Compilation of the 6th Mixed-Integer Programming Library, Mathematical Programming Computation (2021).
- [4] 品野勇治: MIPLIBとHans Mittelmann's Benchmarks, オペレーションズ・リサーチ, Vol. 65, No. 1, pp. 49-56 (2020).
- [5] M.Yagiura, M.Kishida, and T.Ibaraki: A 3-flip Neighborhood Local Search for the Set Covering Problem, European Journal of Operational Research, Vol.172, No.2, pp.472-499 (2006).
- [6] S.Umetani: Exploiting Variable Associations to Configure Efficient Local Search Algorithms in Large-Scale Binary Integer Programs, European Journal of Operational Research, Vol.263, No.1, pp.72-81 (2017).
- [7] K.Nonobe and T.Ibaraki: An improved tabu search method for the weighted constraint satisfaction problem, INFOR Vol.39, No.2 pp.131–151 (2001).
*1:個人的によくお世話になっているのは academictimetablesmall, ex9, neos-2657525-crna, brazil3, lectsched-5-obj の5題です.
*2:正確には「メタヒューリスティクス」は具体的なアルゴリズムを指すものではなく,ヒューリスティクスを設計・実装するための汎用的なアイデア群のことを指します.ただし本記事では「メタヒューリスティクスに基づいて設計・実装されたヒューリスティクス」のことを指してメタヒューリスティクスとよぶこととします.
*3:ここで右辺が整数とならなかった場合はその時点でインスタンスが実行不可能性が示せたことになります.実行不可能性を許容しつつ探索を継続したい場合には右辺の値を適当に整数にまるめて $x_{j'}$ の値として固定するなどの方法が考えられます.
*4:前処理後に (15) 式を制約条件として残すべきか,除去すべきかについては慎重な議論がいりそうです.残す場合,アルゴリズム設計・実装において整合性を気にするべき点が多数出てくるため,個人的には除去する方法が好みです.
*5:ただし,制約違反量の計算結果が変わるので,探索の様相は変わります.
*6:不等号の向きが ($\le$) となった問題は「集合パッキング問題」とよばれます.こちらについても本記事に記載したものと同様の前処理を考えることができますが,割愛させていただきます.
*7:このほかにもたとえば,複数の制約で同じ記号の中間変数が抽出された場合の扱いなどにも注意を要しますが,本記事では割愛します.
*8:「良い解同士は似通った構造をもっている」という仮定で,しばしばメタヒューリスティクス設計の前提としておかれます.
*9:0-1 変数をつなぐ等式制約条件であっても $x_{1} + x_{2} = 1$ の形式のものについては,片方の変数を削除してもとくに大きな問題は生じないことが多い気がします…なぜ….
*10:目的関数中の $y$ に $1- \sum_{j \in \mathcal{J}} x_{j} $ を代入すると,当該部分のレンジが本来 $[0, w]$ だったものが $[w (1- \lvert \mathcal{J}\rvert), w]$ になります.
*11:ただし聞くところによると SCIP には上述の処理が実装されているようで,ただちに最適解が得られます.
*12:計算時間にファイル読み込み処理分は含んでいません.前処理分は含んでいます.
*13: メタヒューリスティクスが(少なくとも本例において)上界値の更新だけをタスクとするのに対して,CBCをはじめとする MIP ソルバは下界値の更新やそれに基づく最適性・実行不可能性の証明もタスクとして担っているため,上界値のみを参照した性能比較は適切ではないと考えています.
*14:適用したメタヒューリスティクスは, $(\mathrm{IP})$ のインスタンスに対し一般に最適性や実行不可能性の証明をすることはできませんが,ある実行可能解においてどの変数を操作しても目的関数値を改善できない場合はその実行可能解を最適解として結論付けられます.